講座概要


21世紀型成長シナリオ

20世紀型の成長は、公共財としての無限受容可能な環境、労働力・天然資源・金融資本の潤沢かつ際限ない投入、そして、地域的な偏在性を緩和する物 流と情報伝達をベースとして達成されてきた。しかし21世紀に入り、地球規模の環境受容限界と化石燃料の減耗によりこの成長が持続できなくなる可能性が強く指摘されるようになった。Royal Dutch/Shell の環境コンシャスな国際協調シナリオでは、最大限の需要抑制政策の元でも石炭消費は増え続けるものの、石油と天然ガスは2030年前後 から生産量が頭打ちになることが想定されている。在来型石油資源の減耗に起因する石油生産の減退には諸説あるが、一般的に年間1%~3%の減退が予想されている。人口が伸び続け、充分なエネルギー供給を前提とする食料生産にまだ余力がある2030年前後の段階での化石燃料の生産減退は、食料生産及び経済成 長の最も深刻な制約条件となる。この化石燃料の減耗と、人為的な温暖化ガスの排出による気候変動は表裏一体で、これを同時に解決しつつ成長を続けるために は、温暖化ガスを排出せず資源を減耗しないクリーンエネルギーシステムに早急に転換する必要がある。
本寄付講座では、将来GW/TW級太陽光発電所を低緯度砂漠地帯に建設し,そのエネルギーを大口消費地まで輸送し利用するにあたって必要となる,要素技術研究,システム研究,社会制度研究,実証実験等を産業界と連携して行い,持続可能なグローバルエネルギーシステムへの移行プロセスの検討を行う。
ギガワット級ないしテラワット級の超大規模太陽光発電システムに関する本格的な研究の取り組みは世界的にも初めてであり、エネルギー貯蔵を含む出力変動対策や系統連系に対しても独自の包括的なアプローチを行っていく。直流給電やデジタルスマートグリッドなど、電源インフラの抜本的変革も視野に入れた取り組みも進める。発電された電力の長距離輸送に関しては、直流送電や超伝導ケーブルなどの革新的送電網とともに、全く新しい発想の電池や液 体・固体媒体による海上輸送も研究対象とする。

日本、現地国、東大、産業界の緊密な連携プレーで問題を解決

化石燃料から太陽エネルギーへの転換を可能にするため、当初の5年間で超大規模太陽光発電システムの問題点を抽出し、現地国との協力体制のもとで集光型超高効率太陽光発電システムを中心とする次世代太陽光発電システムの実証試験を行い、完全商業化を達成するための必要条件を明確化する。
このため、東京大学の全学をあげた関係研究者の結集に加えて、広く政府や産業界と協働して研究を行う。本寄付講座は、上記の研究趣旨に強い関心と期待を寄せるシャープ株式会社、株式会社日本政策投資銀行、日揮株式会社、電源開発株式会社のご寄付により、総長室総括プロジェクト機構に属する総括寄付講座として設置されたものであり、経済産業省からも強いサポートをいただいている。同講座は、これらの目的を達するため産官学連携の GS+I研究会を設置した。本研究会では、産官学連携を通じて上記の課題整理を行うとともに、グローバルなソーラー産業創成に向けた国際戦略の政策提言を行う。また、砂漠域における実証実験を企画し、産官学による大学院講義等を通して世界規模で通用する人材育成を推進する。

赤道から太陽を輸入

低緯度乾燥地域で、太陽光、太陽熱によって発電し、欧米、日本などの大消費地、あるいは中国、インドなどの発展著しい大生産地域に送電し、そのエネルギー需要を賄うということは、圧倒的な発電コストの低廉化が実現すれば、地球環境保全とエネルギー循環という観点から選択肢の一つとして有力である。こ のためには、発電パネルの低廉化もさることながら、メガ、テラ級の発電設備のメンテナンス、更新などの省力化(例えばロボット化など)、低コスト&低損失 の大容量送電技術、送電設備の保守点検、安全確保、またはエネルギー変換を介したエネルギー輸送技術の開発など社会経済的に総合的な観点からの取り組みが 必要となる。

赤道に産業を輸出

しかし一方では、石油を代表とする化石燃料とは異なり、電力はそのまま輸出するとさしたる付加価値がつかないという問題があり、生産国のメリットが 少なく、開発のインセンティブが働きにくい。このため、基本的にはその地域で利用して付加価値を高めること、すなわち生産国の工業化を積極的に進めることが当該国にとっては望ましい。低緯度乾燥地域で発電し、既存の大消費地に送電して産業振興を図るという発想もさることながら、グローバルな産業配置の最適化により、エネルギー生産国と消費国がWin-Win関係を構築することも考慮する必要がある。しかしそのためには、国際的な産業構造変換を見越した適切な政策誘導が必須で、単に太陽光発電や風力発電技術開発だけではない総合的なエネルギー戦略の立案が必須となる。

本寄付講座の目指すもの

世界的な産業構造の再編を伴うこのようなエネルギーシステムの転換は,無理なく移行するには少なくとも30年から40年という長い歳月が必要である.つまり,2050年の世界を想定した取り組みがすでに始まっていなければならないのである.本寄付講座が目指しているのは,このような壮大な思考実験による問題点の抽出と,持続可能なエネルギーシステムへの転換を可能にするための必要条件の整備である。


 
東京大学
シャープ
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日揮株式会社
日本政策投資銀行 電源開発株式会社